文法は基本ではない

英国の英文法はわずか400年余りの歴史しかないのです。もちろん、それまでは「英語の文法書」も存在していませんでした。

1.英語の標準化

英文法の開発が始まった頃は、「文法(Grammar)」という言葉は「ラテン語文法」のことを指していました。この出自のまったく異なります。ラテン語の文法を無理やり「下敷き」にして生まれたのが、そもそもの「英文法の始まり」でした。

そして、いわばネイティブ・スピーカーの学校教育用英文法となる規範英文法の決定版とも言われているLindley Murray著のEnglish Grammarが出版されたのは、それから200年近くも経ってから(1795年)のことです。

English Grammarは200年の歴史しかありません。日本で最初の英文法書は、この「翻訳」に過ぎないのです。

2.英語文型の問題

そしてその英文法が編纂されたのは当時乱れていた英語の標準化のためであり、英語のルールとしての文法ではありません。

それでは、我々にお馴染みの「五文型」と呼ばれる「英語の解釈法」もその時に誕生したのでしょうか。 実は、それも違います。

「五文型の起源」は、それからさらに100年以上経った1903年に、オックスフォード大学の語源学者「C. T. Onions」が発表した「An Advanced English Syntax」まで待たなければなりません。

当時、文明開化のまっただ中にあった明治政府は、富国強兵策の一環として国民の英語教育の必要性を痛感しており、英語の本家イギリスからこれを輸入しました。以来、そのまま「日本の英語教育の標準英文法」として定着してしまい、100年以上経過した現在でもほぼそのまま使われています。ことは、皆さんもよくご存知の通りです。

ところで、この「五文型の分類」自体、もともと「適切な理解法」として評価されていた訳ではありませんでした。それどころか、「例外が多く学問的にはあまり価値がない」とされていました。そのため、「古典」として残ることが出来ず、英語圏では文法学者以外は誰も知らないようなシロモノで、現在ではわずか日本、韓国、中国・台湾でしか見ることのない「遺物」なのです。

3.意味が理解できなと文法分析できない

英語の”Time flies like an arrow.”は、文法的に考えると実に5通りの解釈ができます。訳したのは1960年代にハーバード大学が開発したコンピュータによる文法分析器だそうで、その機械による訳は以下のようなものです。

 

  1. 時間は矢の進むが如く早く進む(光陰矢の如し)
  2. (あなたが)矢の速さを測るが如く、蠅の速さをも測りなさい

  → Timeは「速さを測定する」という動詞の命令形、fliesは名詞(蠅)の複数形

  1. 矢が蠅の速さを測るように、蠅の速さを測りなさい

  → like an arrow のarrowが主語として解釈されている(2.では目的語として解釈)

  1. 矢と似ている蠅の速さを測りなさい
  2. タイム蠅は矢が好きである

 

2から5の解釈はまさに人知を超えた「超訳」ですが、たしかに文法的には正しいといえます。

その英文はfliesを動詞として訳し、“時間は矢の進むが如く早く進む”が正解になります。ではfliesが動詞であると分かるのは英語の訳を知っているからです。

文法の知識は英文の訳が理解できないと、どのように訳すかは文法的には理解できないのです。文法は言語の基本ではありません。